待つこと



世の中せっかちになって、何事につけてもspeedが求められる。Amazonがいい例で、注文後、大抵数日以内に配達されてくる。急ぎなら翌日には手に取ることができ、仕事上どうしても早く関連する書籍を必要とするときなど非常に助かる。

しかし、急いでないものなども、個別にポコポコ配達してくる。便利さの陰にはノンストップで追い立てられるように働いている人達がいるわけで、すべてのものがこんなに早くなくてもいいような気がする。
子供の頃、月に一度のお小遣い500円位だったろうか、それをもらうと、ひとつちがいの弟と1時間ぐらい歩いて商店街の本屋へゆき、さんざん立ち読みしたあげく、1冊のコミック本を選び、残りのお金で商店街の片隅にあるホルモン屋でホルモン焼きを買った。このホルモン焼きがとんでもなくうまかった。

店のたたずまいとかは、どうしても思い出せないが、おばちゃんが目の前の鉄板で、コテでホルモンを手際よくかき回し、盛り上げ、そのホルモンの山からうっすらと白い湯気があがっているさまが、今でも鮮やかによみがえってくる。同時に、なぜか緑色のドラム缶が一緒に光景とし浮かび上がってくるが、これはたぶん、その中にホルモンが入っていたのでは推測される。
それまでホルモンなど家で食べたこともなく、その存在さえ知らなかった。というのも、決して裕福な家庭ではなかったが、母は厳格な上に世間体とかをとかく気にする人だったので、本人はもとより子供の服装とか食事には人一倍気をつかい、その上、貧乏くさいことは大嫌いな人だったからである。

ある時、うちの家では厳禁されている、ど派手な原色のアイスキャンディを友達が食べているのを、私がうらやましそうに眺めていたら、その友達がポトンと犬猫の屎尿臭の漂う砂場に落としたと、思うやいなや、さっと拾い上げ、パッパッと砂を手で払いのけてなにごともなかったように口にいれたので、自分と周囲との違いにびっくり仰天した覚えがある。

それでも弟などは、隠れてこそこそ買い食いなどをしていたが、ベビースターラーメンを吐いて戻し、母親にみつかりこっぴどくしかられていたりするのを、私は、やっぱり駄目なんだと複雑な面持ちで眺めていたりしていた。
このホルモンも情報通の弟がどこからか仕入れてきた話だった。「ホルモンそれを食べるもんなん?理科でならったような気がするけど・・」というのが私の素朴な疑問だった。

くだんのホルモン焼きを初めて見たときは、「すごいなぁ、何かわからん」「これって食べてお腹こわさんかな?」でも、その何かわからんホルモン焼きは、私たちにとって未体験の旨さだった。そのホルモンを100円か200円とかで買うと、豆腐を1丁入れるような容器に山盛りになる。

それをつまようじで一つ一つ口に運びなから、買ったばかりのコミックを読みながら、二人して家へ帰るのがこの上ない月に一度の楽しみであり、その一度が待ち遠しかった。
あれからホルモンは食べたことがない。今、目にするホルモンと明らかに見た目が違うからである。

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